新型コロナウイルスワクチンの臨床試験をめぐる訴訟について、アメリカの連邦控訴裁判所が2026年7月23日、新たな判断を示しました。
訴訟を起こしたのは、アストラゼネカが開発していた新型コロナワクチンの臨床試験に参加した米国人女性、ブリアン・ドレッセン氏です。
今回の裁判で大きな争点となっているのは、ワクチンそのものの安全性を判断することではありません。
治験参加前に交わされた同意書の補償に関する記載と、製薬会社を保護する米国の「PREP法」の免責がどこまで適用されるのかという問題です。
2020年にワクチンの臨床試験へ参加
裁判資料によると、ドレッセン氏は2020年11月4日、米ユタ州でアストラゼネカの実験段階にあった新型コロナワクチンの臨床試験に参加しました。
接種前にはインフォームド・コンセント(説明・同意)の書類に署名しています。
その書類には、研究による傷害が発生した場合、一定の条件のもとで医療費を負担する旨や、その費用をカバーする保険についての記載がありました。
一方で、新型コロナに関する公衆衛生上の緊急事態により、連邦法によって製薬会社などを訴える権利が制限される可能性についても説明されていました。
接種後に深刻な症状を訴える
裁判所の文書では、ドレッセン氏が接種後に「debilitating medical injuries(衰弱を伴う深刻な医学的傷害)」を負ったと記載されています。
その後、アストラゼネカに医療や補償を求めたものの拒否されたとして、2024年5月に訴訟を起こしました。
ここで重要なのは、今回の控訴審が、彼女の症状とワクチンとの医学的因果関係を最終認定したわけではないという点です。
争われている中心は、補償をめぐる契約と法律上の免責です。
「約束した補償を受けられていない」と提訴
ドレッセン氏側は、同意書の内容に基づき、アストラゼネカには研究による傷害の費用などを負担する契約上の義務があったと主張。
「契約違反」などを理由に訴えました。
これに対しアストラゼネカ側は、PREP法による免責が適用されるとして、訴えを退けるよう求めました。
一審と控訴審で判断が分かれる
一審のユタ州連邦地裁は、PREP法による免責について、今回のような契約上の請求には適用されないとして、アストラゼネカ側の主張を退けていました。
しかし、2026年7月23日、第10巡回区連邦控訴裁判所はこの判断を覆しました。
控訴裁は、PREP法の免責は不法行為だけではなく、一定の契約違反に基づく損害請求にも及ぶと判断しました。
ただし、裁判はこれで終わりではない
ここが今回のニュースで重要なところです。
控訴裁はアストラゼネカ側の主張を全面的に確定して訴訟を終わらせたわけではありません。
治験の同意書に補償についての記載をしたことで、アストラゼネカがPREP法による免責を放棄したといえるのかについて、一審の連邦地裁で改めて検討するよう差し戻しました。
つまり、
「アストラゼネカ勝訴で終了」でもなければ、「ワクチンによる健康被害が裁判で認定された」という判決でもありません。
今後は、治験参加者との間で交わされた同意書の内容と、法律による製薬会社の免責がどのような関係にあるのかが焦点となります。
ワクチンそのものとは別の重要な問題
今回の裁判は、ワクチンの有効性や安全性そのものを評価する裁判とは性質が異なります。
臨床試験に参加する人へ提示された補償内容が、緊急時に製薬会社などを保護する法律のもとでどこまで法的な効力を持つのか。
治験参加者の保護という観点からも、今後の判断が注目されます。
※本記事は2026年8月16日時点で確認できる米連邦裁判所の判決資料などをもとに構成しています。原告が訴える症状とワクチンとの医学的因果関係が、今回の控訴審判決によって確定したものではありません。


